目的:食事の摂取が困難な場合、栄養補助剤に増粘剤を混ぜてとろみをつけ摂取します。このとき、栄養補助剤と増粘剤の組み合わせによって増粘効果が変わるという問題があります。介護食の粘度は障がいの程度によって変える必要があるため、組み合わせによって粘度がまちまちに変化すると、介護者は粘度調整に手間取ることになってしまいます。そこで、この研究では、
1. なぜ増粘効果が組み合わせによって変化するのか?そして、2. 異なる増粘効果が発生する原因は何か?
を明らかにしつつ、粘度を簡便に評価できるキットの開発に挑戦することにしました。
01:栄養補助剤と増粘剤の流動挙動
増粘剤は多糖類を粉末状にしたものです。まずはじめに、増粘剤を栄養補助剤に分散し攪拌した時に、増粘剤がどのように溶けていくのか確認することにしました。右の写真は、増粘剤の溶解過程を観察するために用意した装置です。
粘度計を倒立顕微鏡上に設置し、流動を与えることによって増粘剤が溶けていく様子を観察しました。その結果、室温の下、スプーンで攪拌する程度では、増粘剤は栄養補助剤に完全には溶けないことがわかりました。溶液を温めることにより増粘剤は溶解し、増粘効果も顕著となりますが、2%の増粘剤濃度ではかなり粘稠な液体となってしまいます。


左の写真は攪拌前後における増粘剤の顕微鏡写真です。白い物体が分散させた増粘剤です。
攪拌前、栄養補助剤中に分散させた増粘剤はゲル状粒子となり液体中を漂っています。攪拌後、増粘剤のゲル状粒子は部分的に溶解し細かくなりますが、依然としてかなりの数の微粒子が漂っていることがわかります。

02:粘度挙動
増粘剤が完全には溶けないことに加え、栄養補助剤と増粘剤との組み合わせによって粘度挙動も異なることが明らかになりました。
左の図は異なる栄養補助剤と増粘剤の組み合わせにおいて得られた粘度の測定データです。
左はメイバランス、右はリーナレンLPを用いた測定結果で、どちらも同じ増粘剤を加えています。青とオレンジのデータは粘度測定を二回繰り返し行った際の結果です。一回目より粘度が減少する場合と、増大する場合があることがわかります。この研究により、このような粘度挙動の違いが、栄養補助剤の組成によって決まる傾向があることがわかってきました。増粘剤は溶解することにより粘度を上昇させますが、必ずしも溶けることによって期待する増粘効果が生じないことがわかり、介護者にとって大きな問題となります。
03:粘度評価キットの試作
栄養補助剤に増粘剤を溶かしながら粘度評価できるキットの試作と検証を行いました。増粘剤の溶解と粘度評価とを同時に行うことにより、介護者の負担を軽減することができます。
右の動画は簡単に粘度評価を行うことが可能かどうかを調べるために色々試している時のものです。増粘剤は濃度0.5%, 1.0%, 2.0%で調整されることが多いのですが、簡単な手法でもおおよそこの3つの違いを区別することができます。